ニュース
ダイハツ「ロッキー」とトヨタ「ライズ」の細部を解説! 2台並んで展示された説明会レポート
デザインの違いは? 採用技術は? 開発担当者に話を聞いた
2019年11月6日 12:27
- 2019年11月5日 開催
11月4日にグランドフィナーレを迎えた東京モーターショー 2019でサプライズ発表されたダイハツ工業の新型コンパクトSUVは、11月5日に同社が進める新世代のクルマ作り「DNGA(ダイハツ ニュー グローバル アーキテクチャー)」の第2弾となる新型コンパクトSUV「ロッキー(Rocky)」として発売された。また、このモデルにはトヨタ自動車のラインアップに加わる「ライズ」も用意されていて、こちらも同日に発売された。
さて、このロッキー及びライズの概要は別記事(ロッキー/ライズ)にて紹介をしているので、各車の主な情報はそちらを読んでいただきたい。本稿ではダイハツ自動車東京支社にて行なわれたロッキーとライズの技術説明会の内容をお伝えしていくが、まずは取材時点で分かった車両の特徴や詳細から紹介していこう。
差別化されたエクステリア
最初はスタイリングから。ロッキーとライズはAセグメントのコンパクトSUVに属するクルマで、車体のサイズも3995×1695×1620mm(全長×全幅×全高)と小さい部類のはず。しかし、会場で実車を見ると「小さい」とは思えない。十分に堂々とした印象を受けた。そこで解説員の方にデザインのポイントを聞いてみたところ、「面」の作り方にポイントがあった。
ロッキー/ライズではボディの面積のうちガラスエリアをコンパクトにすることで、車体を横から見たときのドアの厚みを稼ぎボディの「面」の部分を広く取っているので、これでまず高さや大きさを表現。さらにその面もできるだけシンプルなものとして「面」に「力強さ」を加えているという。
こうした側面のデザインに対してフロントマスクもできるだけ「厚み」を持たせることで、全体のイメージに負けない立派な顔つきにしている。それと同時にシャープなイメージのヘッドライトの形状を活かした「眼力」のある顔つき作るため、ボンネットはセンターを盛り上げたあと、一度落とし込み、そこからサイドに向かって再び盛り上げるというデザインにしている。
ロッキーについては、「小型車のダイハツ」というイメージを打ち出すためにグリルやフォグランプまわりの造形を考え、迫力だけでなくキビキビした印象も加えているとのことだった。
対してトヨタのライズは、トヨタSUVの記号でもある台形グリルを取り入れることで、トヨタSUVらしい先進的な顔つきにしている。ロッキーとは顔つきが大きく異なるが、実はグリルとバンパーが違っているだけでヘッドライト、ボンネットは同じ形状となる。また、サイド、リアなどその他のボディ形状も共通となる。
なお、テールゲートから回り込むように配置されたサイドのウィンドウはテリオスシリーズのデザインにも似ているが、ここはとくに意識したものではないということだった。
ボディカラーは両車とも8色展開だが、うち3色にルーフ部分をブラックマイカメタリックにする2トーン仕様が用意されるので計11種類となる。
ロッキーでは「コンパーノレッド」がイメージ色になるが、名称になっているコンパーノとはダイハツが初めて作った乗用車の名前で、今回DNGAを使った初めての乗用車ということから新色にその名前を使ったという。なお、コンパーノのボディ色にも鮮やかなオレンジが使われていた。ライズには身近さや快活さをイメージした「ターコイズブルーマイカメタリック」を新色として用意している。
先進性やプレミアム感、ワクワク感を表現するインテリア
次にインテリアを見てみよう。基本的な作りや装備はロッキーもライズも同様で、メーターは先進性とプレミアム感を表現した「アクティブ マルチ インフォメーションメーター」を採用している。このメーターの特徴は4種類からのメーターデザインを切り替えて表示できるところで、切り替えの操作はステアリングのスイッチで行なう。
シートに関しては、ロッキーのPremiumのみ表皮がファブリック×ソフトレザー調シート(白ステッチ)で、ほかグレードのシートは赤いパイピングが入るフルファブリックシートになる。赤いステッチを入れた理由を伺うと「SUVという行動的なクルマから受けるワクワク感」をイメージしたものとのことだ。また、インテリアにはコンソールなど各所に赤×シルバーの加飾も施されて(ロッキーのPremiumは黒×シルバー)上質感と遊び心を表現している。
DNGA技術を用いたプラットフォームやパワートレーン
さて、ここからはロッキー/ライズの技術面の紹介をしていこう。まずはDNGAプラットフォームからだ。このDNGAプラットフォームとは7月に発売されたダイハツの軽乗用車「タント」から始まっているダイハツ車の新しい基本骨格で、特徴は骨格の断点を排除した連続性のある構造にして運動性能向上を果たしつつ、適所に薄板を使用することで軽量化も実現しているところ。
このDNGAプラットフォームは車両サイズをコンパクトにしつつ室内空間を広く取ることができるので、そこもロッキー/ライズの特徴の1つになっているが、実は車体サイズ以外にもわれわれユーザーが注目したい部分がある。それが「走りのよさ」と「乗り心地のよさ」という面である。
プラットフォームはクルマの基本の基本になる部分だけに、設計時はここから先に作っていくのだろうと思うところである。実際、その順序で作るケースは多くダイハツもDNGAが登場する以前のクルマではそうしてきたという。
しかし、この方法では骨格に対してサスペンションのジオメトリーを「合わせる」ようになるので、足まわりでの理想の性能を出すにはサスペンション側に「ひと手間」や「ひと工夫」をすることが必要だった。しかし、これでは手間暇ぶんや追加する何かのぶんのコストが余計に掛かることになるので、「良品廉価」という目標を掲げるダイハツのクルマ作りには当てはまらないものとなる。
そこでDNGAでは、プラットフォームの設計より先にサスペンションの性格を位置づけるジオメトリーから決め、その後にサスペンションの各パーツの選択や配置を考えていく。これでサスペンション性能の大まかな部分ができあがるので、あとはショックアブソーバーの特性、ばね定数、ブッシュ類の特性などを決めていくことで細かい乗り味を作っていき、最後にそれらの造りを活かすことを盛りこんでプラットフォームの構造を考えていくのだという。
これによりDNGAプラットフォームは剛性があって軽いというだけではなく、サスペンションの動きがいいから走りの気持ちよさと乗り心地のよさもある造りになっているということだ。ロッキー/ライズの試乗会が近いうちに開催されるということなので、乗り味についてのコメントを楽しみにしていてほしい。
エンジンはダイハツ「トール」、トヨタ「タンク」に搭載している3気筒 1.0リッターターボエンジンの改良版となる。主に変更した内容は吸気系と排気系で、吸気系ではまずインタークーラーをエンジンの上置きから前置きに変更した。これにより、吸入空気の温度を低めで安定させることができたので、エンジンの対ノック性が向上。点火時期のリタード制御が入りにくくなり、エンジンにとって本来あるべき点火時期をキープできるようになった。
これらのことで、エンジンの効率がよくなり、実用燃費の向上とトルクアップによる動力性能の向上を図ることができたという。また、エアクリーナーボックスもトールやタンクではエンジン直上にあったものをボディ側に移設している。これはDNGAプラットフォームの今後の展開を見据えての変更でもあるとのこと。
排気系に関しては触媒のサイズを大きくすることで圧損を低減している。なお、このエンジンは3気筒なのでそもそも排気干渉が少なく排圧が上がりにくい傾向だ。そこに圧損の低い大容量の触媒を組み合わせると、排気側から燃焼室側への「押し戻すような圧力」が起こりにくいので、エンジンの燃焼工程での吸気、排気がスムーズになる。この状況はターボとの相性もいいので、最高出力に関してはムリをさせずとも出しやすいとのことだった。
次はCVTについて。ロッキー/ライズには新型タントでも使われたD-CVTが使われている。D-CVTは発進や低速、中速域では金属ベルトを使った無段階の変速を行なうが、CVTは機構上、高速領域になると伝達効率に落ち込みが発生するので速度も燃費も伸びてこない。そこでD-CVTはCVT機構にギヤ駆動を組み合わせた構造とし、CVTの伝達効率が落ち込む高速領域でギヤ駆動へと切り替わるようにしている。
これにより高速域での効率ダウンはなくなり、変速比幅も広がるため、速度の伸びと燃費も向上。また、エンジン回転数を抑えることになるので、高速巡航時の騒音の低減にもなるのだ。このD-CVT機構での変速比幅をATに例えると7~8速ATと同等クラスになるという。なお、ロッキー/ライズのD-CVTにはマニュアルモードも設定されていて、その段数も7段変速になっている。
また、高速領域は金属ベルトの駆動による負担が掛からないので、ベルトの耐久性についても通常のCVTより有利であるとのこと。
続いては「ダイナミックトルクコントロール4WD」と呼ぶ電制4WDシステムの紹介だ。従来の4WDではビスカスカップリングを使ってトルク配分を行なっていたが、ロッキー/ライズではビスカスカップリングの代わりに電子制御カップリングを使用している。
この電子制御カップリングは、トヨタなど多くの自動車メーカーのクルマにも採用されている信頼性のあるもので、カップリングと合わせてトルク配分制御用ECUも専用品を使用するというが、ダイハツはこの制御にトライしたいということから、トルク配分用のECU本体と内部の制御プログラムを内製化したのだった。
そしてその効果はというと、通常のこのカップリングを使ったシステムでは、フロントタイヤが滑って空転したときにリアに駆動が行く制御なので、例えば雪道での発進などではよくても、フロントタイヤが滑るorグリップするという挙動が繰り返し起こる路面では駆動の掛かりが一定にならず、不安定な走行状態になることがある。
それに対してダイハツ独自の制御ECUでは、微少なスリップが起きた際にその状況から路面のμを計算してリアに適切な駆動を配分し、フロントタイヤの滑りが収まったとしても4WD状態を一定時間キープさせるようにしている。これにより、例えば雪が積もった高速道路など、滑りが収まっても心境的に4WDのままで走ってほしいときでも、希望どおりにリアへトルクを配分した状態が継続される。それに「とりあえず4WD」の状態でいる間にも路面のμを計算しているので、ところどころでスリップがあればそれに応じたトルク配分も行なう。そして、路面状態が安定してスリップがなくなっていれば2WDへと戻す制御を行なうのだ。
このように、滑りに応じてトルク配分を行なうスタンバイ4WDとしては理想とも言える賢い制御なのだが、使用しているセンサー類はクルマ側に元から付いているものを利用しているので、ここでも余計なコストを掛けない作りを実践しているのだった。
進化する「スマートアシスト」
今度はスマートアシストプラスについての紹介だ。これまでのスマートアシストでは、カメラと前後のソナーセンサーを使って各種機能を働かせていたが、ロッキー/ライズからはリアバンパー内にミリ波レーダーが付けられたことで、従来のスマートアシスト、スマートアシストプラスでの計15種類の機能に「BSM(ブラインドスポットモニター)」「RCTA(リアクロストラフィック)」が追加された。
BSMとは、隣車線や自車のミラーの死角領域にいるクルマ、もしくはそのエリアに入ってくる車両がいた場合、ドアミラー内にあるインジケーターが点灯して車両の存在をドライバーへと知らせるものだ。そしてRCTAはギヤがリバースのポジションのとき、自車の後方を横切ろうとするクルマの動きが「自車にとって危険」とシステムが判断した場合に警報を鳴らす仕組みで、相手のクルマの速度が速ければ早い段階で警報が鳴り、相手の速度が遅ければ、ちょうどいいタイミングで警報が鳴るというものである。
ただ、駐車場によっては面する道路(通路)に対して斜めの駐車枠を設定していることもあり、以前のレーダーでは車体と道路(通路)の角度が広くなる側へは照射角が不足することもあったが、ロッキー/ライズが使用するミリ波レーダーは、センサーの中心に対してそれぞれ75度の照射角があるので、通路に対して駐車枠が斜めになっていても、多くの場合でカバーできるようになっている。
以上が今回の説明会で知ることができたロッキー/ライズの技術面の特徴だ。DNGAプラットフォームをはじめ、各所にコストを下げる工夫をしているが、それらは「安く作る」のではなくて「合理化」をすることで達成しているので、コストダウン仕様といっても作り込みや仕上がり、エンジンやトランスミッションなどのすべての面で十分満足できる仕上がりなっている。
そのほかの展示物は以下に写真で紹介するが、とにかくロッキー/ライズは大人気車になる要素を十分に持っているクルマなので、購入を検討している方で早く手元に欲しいと思うのなら、今のうちに販売店に行って商談を進めたほうがいいような気がする。
【お詫びと訂正】記事初出時、キャプションに一部誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。